ヲトメ心と 冬の空?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


駆け足でやって来た秋に負けじと思うたか、
冬もまた、結構な加速でやって来て。
こうまで早い豪雪となったは、
まだ準備前だったところへ寒気が南下して来たため、
海水温が高く、水蒸気が満ちてた大気が
急に凍らされたせいだとかどうとか、

 “ヘイさんが言うておったが。”

前世ではさして歳も違わぬ同士だったのが、
今はずんと年下なお嬢さん。
だのに、色々と御存知なものだから、
偉い偉いと褒めつつも
ついつい微妙な懐かしさを覚えてしまう五郎兵衛で。
今日も昼間ひなかからずんと冷えていて、
ここ甘味処“八百萬屋”でも
温かいメニューのオーダーばかりが出ておいで。
旅先で見つけた古い民家を移設したそれ、
頼もしいまでの柱や梁も黒々としていて、
そこは塗り直したしっくい壁が
落ち着いたコントラストとなっていい味の出たお店へ、

 「こんにちは。」
 「おや。」

ひょいと顔を出したのが、
五郎兵衛の側からも顔見知りのスーツ姿の男性だ。

 「こんな陽の高いうちからお越しとは、お珍しいの、佐伯殿。」

いかにも背広を着ならした感のある、勤め人風な彼だったが、
実は実は警視庁勤務の刑事さんという知人であり。
不規則なお勤めなのは重々承知だが、
ならばならで、こんな昼間の明るいうちから、
管轄外もいいところのこの辺りへ姿を見せるなんてと、
そこは率直に思ったことを口にしたまで。
いかついお顔だが 気安い性根の、誰へも朗らかな店主様だったのへ、
いやまあと言葉を濁しつつ、
コーヒーを注文し、カウンター席へ腰を落ち着かせる。
奥のほうには框で段差をとった畳敷きの座敷席が設けられているが、
入り口近くにはごくごく普通のテーブル席も壁沿いに並び。
それらを背にした格好となる、
なかなか立派なケヤキの一枚板の大カウンターから、
くるんと店内を見回した佐伯さん。
やや鋭角的なお顔を、だが今はちょっぴり間延びさせ、
何かお探しの気配を示してから、
どうぞとブレンドコーヒーを差し出すマスター殿へ、

 「時に林田さんは どうされましたか?」
 「はい?」

こちらへ下宿しておいでのお嬢さんを、この刑事さんも御存知で。
御存知どころか、
まだ女子高生だというに
コンピュータ操作や特殊ウェポンとしての小道具作りの
天災、もとえ天才だということや、
実は…特殊な前世の記憶を持つ“転生人”だということまで、
そちらはお仲間のようなものだからではあるが、
重々知っておいでだし、職業柄(?)振り回されてもいる間柄。
そんな彼だというのをそれこそ知っているだけに、
五郎兵衛の側でも、ほのかに苦笑をし、

 「何も いつもいつも店を手伝ってくれておる訳でもないのでな。」

ましてや、もう冬休みも同然という身だしと続けかかれば、

 「そこなんですよね。」

佐伯刑事のお顔が五郎兵衛と同じような苦笑に染まり、
淹れていただいたコーヒーを、芳香ごとまずはと堪能してから、

 「御存知ないですか?
  この近辺で
  イルミネーションを壊して回ってる良からぬ輩が出ている話。」

 「ああ、らしいですな。」

ここいらは静かな住宅街で、
殊にこうまで奥まった辺りは
ちょいと格式も高い“お屋敷町”と呼ばれるような閑静さだが、
駅に近い辺りは住人も新しめなせいだろか、
この時期には自宅の壁やバルコニー、
はたまたお庭や門扉などへと
イルミネーションや 照明を仕込んだディスプレイを配して
クリスマスらしい装飾をなさっているご家庭もある。
ところが、それがボチボチ始まったかなという頃合いから、
丹精なさった庭先へ踏み込んでまでして、
LEDのカーテンのようなイルミネーションを引き千切ったり、
サンタやトナカイをかたどった人形を壊したりする
心ない輩が出没する騒ぎが勃発。
しかも数件ほど続いたとあって、
住人たちの間でも
由々しきことよと取り沙汰されて…いるにはいるが、

 「だが、そやつは物を壊して回るだけで、
  泥棒だったり放火魔だったりという気配はないとか。」

 「らしいんですが。」

ディスプレイに手を掛けるだけで住居へ近づいた気配はなし、
ましてやボヤが出たとかいう話とセットになっているでなし。
何が気に入らないのか、
クリスマスを楽しむ気分へ水を差して回ってる
いやらしい輩なようだということで。
何より、月初めの数日に立て続いて以降は
不気味ながら鳴りを潜めてもいるがため。
一応の警戒をというお知らせが回っており、
町内会でも夜回りの当番を増やしているそうなと、
そこはそれこそ五郎兵衛も住人の一人ゆえ、
ようよう承知の顛末。
むしろ、それをこの佐伯刑事が知っていたことの方が
何とも意外というところ。
そんな感慨を持たれている気配は、ご本人にもピンと来ているようで、

 「はっきり言って管轄外なんですがね。」

都内じゃあってもそうそう日頃から
他県で言えば県警に当たる警視庁が
此処まで広くまんべんなく住民の皆様の近辺をフォローしてはいない。
都内における広域事件や重大案件へと捜査本部を立ち上げ、
それっと動き出すのであって、
今の段階では所轄の署が初動捜査をしているところで、
そこは佐伯さんとて重々承知。ただ、

 「この区域で何事かあると、
  ついつい見回ってしまう習慣が身についてしまってて。」

所轄署のお人たちやら、
何事か起こしそうと目串を刺されておいでの誰か様がたやら、
該当の相手が聞いたら怒り出しそうながら、(笑)
こちらは“そこは判る”と、五郎兵衛もうんうんと頷いたのを見やってから

 「訊き込みをしている警官とは別口、
  ところどこでおシチちゃんや三木さんを見かけましてね。」

 「…おや。」

さっき、片山さんも仰せでしたが、
今は期末考査も終わって冬休み同然の身のはずで。
なのにどうしてと通りすがりを装って声を掛ければ、
お揃いの愛らしいデザインのコート姿だった、
それぞれにそりゃあ目立つ美貌をした金髪のお嬢さんたちは、
お顔を見合わせあうと“ふふーvv”と微笑んでから、

 『私は剣道部のお稽古ですよ。』

七郎次が事もなげに応じ、エアリーな金髪の寡黙なお友達のほうも、
同じようなものだと頷いた。
それでは通じないですよと、苦笑した七郎次が付け足したのが、

 『久蔵殿は斉唱部の練習へ、
  伴奏係として参加なさっておいでなのです。』

終業式がクリスマスミサの日でもあるので、
来賓もおいでになる礼拝にて、賛美歌を何曲か披露するのが常なのだとか。
昼間という時間帯に見かけたお二人、帰宅する途中かと思いきや、
駅前のベーカリーまでサンドイッチを買いに行くのだと言い、
とはいえ、声を掛ける直前に彼女らが話し込んでいたのは、
イルミネーションの破損被害に遭われたお宅のお人。
門扉近くに据えていた鉢植えを
お膝に手を置き、やや屈む格好で一緒になって覗き込んでいて、

 『…ああ、あのお宅も何ですか被害に遭われたそうですね。』

電飾をちぎられたのも悔しいし、門の中まで押し入られたのは不気味だが、
それよりも…と案じてらしたのが、

 『丹精なさった椿の鉢が蹴り倒されてたことで。』

たまたま騒ぎの翌朝も通りかかった私たちだったので、
嘆かないでとお声を掛けて、
お庭の専門家に縁がないでなし、相談して対処を任せたのですが、

 『ちゃんと無事に根が付いたと伺って、それはよかったって。』

枯れてしまったら可哀想ですものねと、
そりゃあ柔らかくも無邪気に微笑った、都内随一という女傑剣豪と、
そんなお友達の笑顔へこそ
ほわんと含羞むように微笑った とんでもなく無口なお嬢さんだったが、

 “……椿、ねぇ。”

そういえばと、佐伯さんがその脳裏にて
備忘録をぱらぱらぱらとめくって出たのが、
このお二人ともう一人、
三華様と呼ばれておいでの人気者三人娘がかかわった騒動に、
そういうカテゴリの案件が そういやあったという記憶。

 “確か、女学園の温室で秘蔵種と知らず育てていた椿を
  コレクターに盗まれかかったとかいう…。”

単なる愛好家と違い、コレクターとなると、
中には投機目的の輩もいようし、
ただただ集めることにだけ血道を上げている偏狭な存在もいよう。
社交界では結構な名士だったというに、
窃盗なぞという犯罪も厭わぬ輩が出たほどなのだから、

 “希少であるほど価値も上がるなぞと、
  不埒なことを思った存在が出たのだとしたら?”

既にお持ちの希少な椿。
だがだが、先の騒ぎで此処にもあると世間に知れた。
さほど価値のあるものという扱いでなかったほどだから、
もしかして周辺のお家にも気さくに株を分けているやも知れぬと警戒し、
イルミネーション荒らしのついでに見せかけ、
椿を片っ端から蹴倒し踏み付けたのではあるまいか。
となると、本命の女学園の椿もまた危ない…と憂慮したお嬢様がただったなら?

 “そこまで先読みするのもどうかとは思ったんだが。”

だがだが現に、部活と関係のない平八さんも不在だという。

 「林田さんも居ないというのは、
  はっきり言って穏やかじゃないなぁ。」

 「よしてくださいって。」

考え過ぎですよと、ざっかけなく笑った五郎兵衛さん、
そのまま続けたのが、

 「そりゃまあ ヘイさんも、
  あの二人が登校しているならってことで、
  女学園へ伸してるんですが。」

 「ほらやっぱり。」

彼は椿の一件を知らないのかな、
いやいや、確か勘兵衛様が伝えただろうし。
呑気に構えてちゃあいけませんよと、
口元を尖らせて見せたそんな同じ頃合いに、




 「………っ。」

 「………っ。」

片やはトレーニングウェア姿で筋トレ中だったのが、
ふと目を見張ってから よく響く拍手にて、ぱぱんっと手を叩いたお嬢さん。

 「では、今から休憩と致します。」

他の部員たちへと声をかけつつ、
自分が真っ先に体育館内のジムからさっさかと出て行きかかる。
もう片やのお嬢さんは、
ちょうど切りのいいところだったピアノ演奏の手を止めて、

 「………スミレを。」

摘みにゆくといや、この学園では“ご不浄へ”という隠語。
半円になってコーラスの練習をしていた他のお嬢様がたも心得ておいでで、
はいと頷き、音楽室からすたすた出てゆく彼女を見送る。

 “何でスミレなのだろう。”

というか、部外者もいないというに
こういう場では“厠へ行く”と
いっそストレートに言っても良いんじゃないかと思うのだけれどと、
何だか妙なことに引っ掛かりつつ。(笑)
セーラー服の袖口を、反対側の手の指をくるんと回して確かめて。
ヘアピン型のインカムから聞こえた指示どおり、
中庭の温室…の向こう側、
卒業生たちが寄贈したあれこれを収めた物品庫へと足を急がせる。

 【 征樹、女学園の近くにおるのか?】
 「? 勘兵衛様?」

てっきり温室の椿への脅威へ構えておいでかと読んでた佐伯さんだったが、

 【 もしかして椿をヒントに拾ったのなら見当違いだ。】
 「はい?」

前世でも今世でも上司の
お髭の警部補殿からの連絡によれば、

 【 何物かに依頼されて
   イルミネーションを壊して回ってた若いのを取っ捕まえたのだが、】

おおお、勘兵衛様もあたっておられましたかと
そんな感慨に胸を打たれたのも束の間のこと、

 「……何物かに依頼されて?」

いやに深いところまで把握なさったおいでのお言葉へ、
いやまあ そこも、椿狙いなら有り得ることかなと、
胸のうちに違和感が持ち上がりかかったのを宥めんとした征樹殿。
だがだが、

 【 ああ。イルミネーションも椿もカムフラージュでな。】

というか、椿は儂らが勝手に過去の事例から想定してしまっただけなのだがと、
警部補殿も同じ推測を立ててらしたことを匂わせてから、

 【 彼らの狙いは鉢のほうだ。】
 「…鉢ですか?」

卒業生の中に、新進気鋭の陶芸家がいるのだそうで、
しかも、ほんの先月、どこやらの権威ある賞を取ったことが判り、
彼女の手になる作品はめきめきと脚光を浴びておいで。
そんな女史が在籍していたころ、
こちらの学園では部活動の一環として、
花と緑を広める運動にも参加しており、

 「美術部が焼いた鉢をご近所に配った?」

つまり、イルミネーション荒らしの狙いは、
珍しい椿じゃあなくて、
脚光を浴びているお人の手になる鉢を壊して回ること…。

 「………ということは。」

女学園に顔を揃えておいでの三華様がた。
楚々としたセーラー服姿の紅ばら様が、
腕を振り抜き、特殊警棒を出しつつ駆け出していて。
トレーニングウェア姿の白百合様は、
通廊にあった掃除用具入れからモップを一本拝借しており。
中庭の先の、特別棟脇にぽつんと佇む、
物品庫の扉を見張っておいでのひなげし様は、
一見 南京錠に見えるが、実はハイテク式の電子錠の数値を
グリグリと分刻みで入れ替えつつ、
お友達を まだかなまだかなと待っておいでで。


  コーヒーとか飲んでる場合じゃないぞ、佐伯さん。





    〜Fine〜  14.12.14.


  *やや暇だったのが一転、
   先月の中程からいやに立て込んで参りまして。
   更新がますますと遅れて申し訳ありませんです。
   師走ですもの、お嬢さんたちも忙しいみたいですし。(おいおい)

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